名誉毀損とプライバシー侵害の違い
インターネットトラブルが起きたときに問題となる権利侵害と言えば、名誉毀損とプライバシー侵害が代表的です。
どちらも個人の人格を守る権利ですが、人格のどのような側面に重点を置いているかは違います。
犯罪となっているか、つまり刑事告訴できるかの可否も、名誉毀損とプライバシー侵害では分かれているのです。
ここでは、名誉毀損とプライバシー侵害の違いについて説明しましょう。
1.権利の内容
名誉毀損で問題となる名誉権と、プライバシー侵害で問題になるプライバシー権は、いずれも個人を尊重するために法律が一人一人に認めている「人格権」から導かれます。
個人の人格は様々な要素から成り立っていますから、人格を守るためには様々な角度からの法的保護が必要です。
名誉権は他人からの評価を維持することで、社会の中で生きる個人の尊厳を守ります。
一方、プライバシー権は私生活上の秘密を他人に知られないよう保障して、他人に関わらない自分自身の心の平穏を保てるようにするものです。
- 名誉毀損:他人からの評価を守る
誹謗中傷により他人からの評判が下がれば、人格へのダメージに直結してしまいます。そこで、社会的評価としての名誉は法律でも条文で保護されることが明確化されています。- プライバシー:自分の秘密を守る
「みだりに他人に知られたくない個人情報」のことです。公開されてしまえば不安や羞恥心を覚えることはいくらでもあります。住所や氏名などについても、誰でも見られる場所に公開され続けたくはありません。このようなプライバシーも個人の人格を守るためには重要だとして、人格権から派生する権利・利益として保護されるようになりました。
2.違法となる条件の違い
投稿が名誉毀損やプライバシーにあたるとしても、違法ではないとして削除請求や損害賠償請求が認められない可能性があります。
例えば、公開されたくない情報であっても、政治家の汚職や不正などは報道されなければならないでしょう。
では、違法か適法かの分かれ目はどこにあるのか。
投稿の適法性を判断するための枠組みにも、名誉毀損とプライバシー侵害では違いがあります。
(1) 名誉毀損の違法性阻却事由
ある投稿が、社会的評価を低下させるものとして名誉棄損に当たるとされても、違法性阻却事由と呼ばれる条件を満たしていれば適法なものとして法的措置が取れなくなります。
主な違法性阻却事由
・公共の利害に関する事柄であること
・もっぱら公共のためにされたこと
・指摘された事実、あるいは評価の前提事実が本当であること など
違法性阻却事由の中でも特に重要な条件が、3つ目の「真実性」です。
内容が本当のことであれば、他人からの評価を傷つける書き込みであっても手出しできない可能性が生じます。
違法性阻却事由はすべての条件を満たすことが必要ですから、自分勝手な嫌がらせや中傷のために投稿されていれば公共性はなく、真実を指摘する投稿といえども違法となりえます。
それでも、裁判所は言論の自由のために公共性を緩やかに判断しがちです。
出来る限り、投稿内容が虚偽であると説明できる資料をそろえましょう。
(2) プライバシー侵害の公益との比較
他人には知られたくない情報であっても、公共の利益のためには公表が認められるべきだとされているケースはありえます。
たとえば、逮捕報道や前科前歴など犯罪事実は、周囲の人間にはもちろん世間にも知られたくない情報です。しかし、実名報道には公共性があるとして、プライバシー侵害にはならないとされています。
もっとも、罪を犯してしまってから何年も経過したのに、あるいは嫌疑不十分で不起訴になったのに犯罪者として実名報道がインターネットに残されたままでは行き過ぎでしょう。
このような考慮を踏まえ、プライバシーに当たる情報が公表されたとき、公表されないことによる利益が公表する利益を上回るかどうかが、プライバシー権侵害の成否を判断する基準となっています。
裁判所は、問題となったケースに応じて様々な事情を考慮しています。
主なものとしては以下が挙げられます。
- 情報の性質及び内容
- 情報が伝達される範囲と被害の程度
- 対象者の社会的地位や影響力
- 公開目的や意義
- 社会的状況、その変化
- 情報公開の必要性
- 公開媒体の性質 など
公共性を考慮する点では名誉毀損と似ていますが、多くの事情を踏まえて判断するため事前に違法となるかの判断がしづらく、リスクについて専門家の助言が必要です。
なお、プライバシーは「私生活上の情報か」がポイントとなり、「本当のことか」は問題となりません。
投稿内容が真実だろうと虚偽だろうと、プライバシー侵害になる可能性があります。
3.刑事告訴について
削除請求や損害賠償請求は、民事裁判における法的措置です。
刑事裁判で有罪にしてほしいと希望するならば、別に刑事告訴が必要です。
名誉毀損については、名誉毀損罪や侮辱罪が対応しています。刑法230条に名誉毀損罪、刑法231条に侮辱罪が定められています。
どちらも社会的評価が傷つけられたときに成立しますので、民法上の名誉毀損はこのどちらかに該当することになります。
事実の適示があれば名誉毀損罪、なければ侮辱罪です。
[参考記事] 名誉毀損罪と侮辱罪の違い一方、プライバシー侵害は具体的な犯罪となってはいません。刑法ではプライバシー侵害に対して刑罰を定める規定は存在していないのです。
個人情報保護法には刑事罰がありますが、これはあくまで個人情報を取り扱う事業者を対象としたものであり、個人間のトラブルを想定していません。
結局、住所氏名を書き込まれたり、風俗で働いていることを身バレされたりしても、警察に告訴することはできないのです。
ただし、個人情報の内容によっては社会的評価の低下も生じますので、名誉毀損として刑事告訴できる可能性はあります。
風俗の身バレや不倫の暴露など、世間からの目が怖いケースでは、社会的評価が低下したとして名誉毀損罪が適用される余地はあるでしょう。
4.まとめ
インターネットにおける誹謗中傷問題で頻出する名誉毀損とプライバシー権は、人格を守るための権利という本質では共通しているものの、他人からの視線に対する個人の態度の違いから、具体的に活用する場面は変わってきます。
言論の自由、公共の場における討論を保障するため、名誉毀損やプライバシー侵害に当たる書き込みであっても法的措置が取れなくなるケースがあります。
どのようなときに削除請求や損害賠償請求が認められないリスクがあるのかについては、名誉毀損の違法性阻却事由の枠組み、プライバシー侵害の総合考慮の枠組み、それぞれについて専門的な知識・経験を前提とした検討が必要です。
インターネット上で誹謗中傷や個人情報の暴露にお悩みの方は、お早めに弁護士にご相談ください。