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名誉毀損の違法性阻却事由とは?

インターネットで悪口を言ってきた相手に法的措置を取りたいとき、誰もが真っ先に思い浮かべるであろう根拠が「名誉毀損」です。

しかし、名誉毀損に当たる投稿が「違法性阻却事由」(いほうせいそきゃくじゆう)を満たしていると、違法性が「阻却」される、すなわち適法な言論だとして削除や損害賠償請求ができなくなってしまいます

通常なら「名誉毀損なのだから削除請求や損害賠償請求ができるだろう」と思えるようなケースでも、違法性阻却事由があると裁判所が法的措置を認めません。これが、ネットトラブル対策の大きなハードルとなっているのです。

ここでは、名誉毀損の違法性阻却事由について説明します。

1.違法性阻却事由とは?

違法性阻却事由があると、名誉毀損に当たる書き込みであっても、言論の自由を守るために法的措置を取れなくなってしまいます。
違法性阻却事由は、刑事と民事で内容が少し異なります。

(1) 刑法の違法性阻却事由

名誉毀損罪にあたる刑法230条の2第1項は、事実の適示が名誉毀損に当たるとしても、

①公共の利害に関する事実
②その目的が専ら公益を図ることにあった
③真実であることの証明があったとき

という3つの条件を全て満たせば、名誉毀損罪として罰しないとしています。

(2) 民事上の違法性阻却事由

民事上の名誉毀損には、刑法とは異なり、「事実適示型」と「意見論評型」の2つの類型があります。

  • 事実適示型:書き込み内容を証拠で証明できるもの
  • 意見論評型:証明になじまない価値や優劣の論議

それぞれに応じて、違法性阻却事由の内容が少し異なっています。

削除請求や発信者情報開示請求、損害賠償請求は民事法上の請求です。
しかし、民法やプロバイダ責任制限法などには、刑法と違い違法性阻却事由の規定はありません

民事上では、事実適示型の名誉毀損が問題になった最高裁昭和41年6月23日の事例で、上記の刑法230条の2の趣旨が当てはまると判断されました。

【事実適示型の名誉毀損での違法性阻却事由】
①公共の利害に関する事実に係ること(公共性)
②専ら公益を図る目的に出たこと(公益目的)
③摘示された事実が真実であると証明されること(真実性)

一方、意見論評型の名誉毀損は刑法では侮辱罪とされている(=名誉毀損罪ではない)ため、刑法上の違法性阻却事由がそのままスライドできません。
最終的に、平成元年12月21日判決が真実性要件の内容変更・逸脱性を追加するべきだとして、以下の4条件を明らかにしました。

【意見論評型の名誉毀損での違法性阻却事由】
①公共の利害に関する事実に係ること(公共性)
②専ら公益を図る目的に出たこと(公益目的)
③意見・論評の前提としている事実が重要な部分において真実であることの証明があること(真実性)
④人身攻撃に及ぶなど意見論評としての域を逸脱したものでないこと

なお、真実であると証明できなかったときでも、「真実であると信ずるについて相当の理由がある」ならば、故意・過失がないとして損害賠償請求ができなくなります。

[参考記事] 名誉毀損の事実適示型と意見論評型の違い

では、それぞれの違法性阻却事由について詳しく見ていきましょう。

2.公共性

名誉毀損が「公共の利害に関する事実に係る=公共性が認められる」ことが第一の違法性阻却事由です。

公共性が認められる条件としては、投稿内容の話題が以下に当てはまるかどうかがポイントとなります。

  • 国や社会レベルの議論になっている
  • 社会的に正当な関心が寄せられている
  • 利害関係者が多数にわたっている

公共性を判断するにあたっては、事実自体を客観的に判断します。

(1) 犯罪歴・前科

公共性でよく問題となるのは、犯罪歴や前科についてです。

刑法230条の2第2項では「公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなす。」としています。
そのため、刑事裁判にかけられる前段階の捜索や逮捕された段階でも、犯罪関連の事実に公共性が認められます。

刑事罰ではなく行政処分を受けたケースでも、この規定の趣旨からすれば公共性ありと判断される可能性が高くなるでしょう。

なお、何年も前の前科・前歴や逮捕歴がネットに投稿され問題になることがありますが、これについて裁判所は、主にプライバシー権侵害と考えているようです。

(2) 公務員や社会的地位が高い人物

刑法230条第3項は、公務員や選挙の候補者に関する事実については、公共性はもちろん公益目的も無条件で認めています。逆に言えば、犯罪や不正にかかわらない「ただの」一般人の私生活ならば公共性が否定されることになります。

しかし、官僚や議員、候補者でなくても大企業の社長や有名大学の教授など「公人」と評価できる人はいます。

最高裁は昭和56年4月16日決定で、「私人の私生活上の行状であっても、社会的活動の性質や社会に及ぼす影響力の程度等によっては、その社会的活動に対する批判ないし評価の一資料として」公共の利害に関する事実に当たる場合があるとしています。
地位の高さ、それに伴う社会一般への影響力次第では、公職にない人の犯罪・不正とは言えない行為についても、公共性が認められる可能性があるわけです。

3.公益目的

次に、「専ら公益を図る目的」で書き込んだのかが問題となりますが、現実には表現形式など書き込みの客観的性質を検討します。
書き込みの主な目的が社会一般の利益向上だったと言えるのならば、公益目的は認められます。

とはいえ、公益を図る目的だったかは、投稿者の心の問題です。
しかも、投稿したその時の目的となれば、なおさらどんな感情に基づいて書き込んだのか他人がそう簡単にわかるものではありません。

そこで、最高裁昭和56年4月16日は、公益目的は「表現方法や事実調査の程度」に基づいて判断すべきとしています。
下劣な言葉を使っているときや、しっかりと調べもせずに書き込んだときに、「社会全体のために真剣にキーボードをたたいていた」とは言いづらいでしょう。

風俗関連やデマに基づく人格攻撃などでは、公益目的が否定される可能性が高くなります。

4.真実性

真実性は、最も重要で争われやすい違法性阻却事由です。
公共性や公益目的は言論の自由を守るために広く緩やかに認められてしまう傾向が強いため、真実性を否定することで違法性阻却事由の成立を阻止できるかどうかが勝負の分かれ目になっているのです。

(1) 立証責任

インターネット上の名誉毀損に対して法的措置を取るためには、事実適示型ならば適示された事実、意見論評型であればその意見論評の前提となっている事実が「嘘」であると認められることが決め手となります。

本来、違法性阻却事由を満たしている証明するのは名誉毀損をした側ですが、削除請求や発信者情報開示請求では、名誉毀損をされた側(訴える側)が積極的に真実性を否定します。

「これは本当だ」と証明することに比べると、「これは嘘だ」と証明することは一般的に困難であり、証拠となる資料も確実なものを充実させる必要があるでしょう。

(2) 真実だと証明すべき対象

投稿内容に現れた「事実」と言っても、正確には意外と定めにくいものです。
まして、誹謗中傷をしてくる投稿は、内容をぼかしたり伏せ字を使ったりと何かと誤魔化そうとしてきます。

投稿のどの部分について、本当のことだと言えばいいのかについても裁判所で争われてきました。

最高裁昭和58年10月20日判決は、表現の「重要な部分」について真実だと証明されればよいとしています。
どこが重要な部分といえるかは、一般の読者の普通の注意と読み方を基準に判断されます。

また、最高裁は昭和43年1月18日の決定で、 「噂なので本当かはわからないけれど~」「友人から聞いた話なんだけど~」など噂や伝聞形式の表現でも、真実性立証の対象は噂の存在や他人から話を聞いたという事実ではなく、その風評の内容となっている事実だとしています。

【意見論評型ではなく事実適示型であることが重要】
意見論評型の名誉毀損では、意見や論評の前提となる事実自体は本当だと推測されやすいです。例えば、グーグルマップや通販サイトのレビューに悪口を書き込まれているとき、本当かどうかが問題になるのは「店舗を訪れたこと」「商品を使ったこと」です。実際にモノやサービスに触れているのであれば真実性は否定できませんし、嫌がらせの虚偽レビューだとしても証明は困難です。
よって、真実性を否定して法的措置を成功させるには、問題となっている投稿が事実適示型の名誉毀損だとされることが前提と言っても過言ではありません。

[参考記事] 本当のことだと名誉毀損にならない?違法性阻却事由の真実性

5.意見論評からの逸脱

これは、意見論評型の名誉毀損にだけある違法性阻却事由です。
最高裁は、「人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでないこと」と述べています。

この要件が満たされなければ、公共性・公益目的・真実性全てを満たした意見・論評ですら違法となります。
もはや言論として保護すべきではないほど「逸脱」の程度が高くなければいけません。

内容だけでなく投稿方法や経緯なども考慮できることは有利な要素となるでしょう。
一つ一つの投稿内容は「バカ」「キチガイ」程度の侮辱表現にすぎなくとも、繰り返し執拗に書き込んでいれば逸脱性が認められる余地が出てきます。

6.まとめ

違法性阻却事由は、名誉毀損だと主張したい時に必ず検討しなければならない論点です。
これまで最高裁まで争われたことも多く、問題となる投稿が違法性阻却事由を満たしている可能性について分析するには、弁護士のアドバイスが欠かせません。

違法性阻却事由を満たしていると判断されてしまうおそれが高いならば、プライバシー権侵害や名誉感情侵害など他の権利侵害も検討することになります。
どんな投稿ならばどのような権利侵害になりえるのか。その判断にも高度な法的知識が必要です。

やっかいなことに投稿者の特定には、技術的な問題によるタイムリミットがあります。
早ければ投稿から1か月以内にサイト運営者に請求をしなければ、違法性阻却事由の適用はないとして名誉毀損に基づく発信者情報開示請求が認められても、相手の個人情報は判明しないまま終わるリスクが生じます。

ぜひ、お早めに弁護士にご相談ください。

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