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誹謗中傷の重要知識

本当のことだと名誉毀損にならない?違法性阻却事由の真実性

インターネットの誹謗中傷で、名誉毀損は最大の問題となります。
しばしば、犯罪者と勘違いされて嫌がらせを受けるなどの被害が世間で騒がれています。

実は、名誉毀損自体は、本当のことを指摘しても成立します。
もっとも、名誉毀損を理由とした削除請求や投稿者特定、損害賠償請求をできなくしてしまう「違法性阻却事由」の条件の一つに、「投稿で指摘された事実、あるいは投稿の前提となっている事実が真実であること」が含まれています。

ここでは、名誉毀損における違法性阻却事由の真実性要件について説明します。

1.本当のことでも名誉毀損になるケース

投稿された内容が本当のことであったとしても、他人からの評判を落とすような悪口であれば名誉毀損が成立します。

名誉毀損でいうところの「名誉」とは、「社会的評価の低下」を意味します。本当かどうかは問題とされていません。

しかし、このままでは他人への批判がすべて許されなくなってしまいますから、言論の自由を守るために、名誉棄損に当たる表現でも要件次第で適法化する制度が「違法性阻却事由」なのです。
「表現内容が本当であること」は違法性阻却事由の最大のポイントです。

違法性阻却事由は、おおざっぱには以下のような内容となっています。

  1. 公共の利害に関する事実に係ること(公共性)
  2. 専ら公益を図る目的に出たこと(公益目的)
  3. 摘示された事実または意見論評の前提としている事実が真実であると証明されること(真実性)
  4. 人身攻撃に及ぶなど意見論評としての域を逸脱したものでないこと(非逸脱性)

1は不要なこともありますが、ともあれ、違法性阻却事由は上記の3つあるいは4つ全てを満たさなければいけません。
1.公共性、2.公益性(+4.非逸脱性)が無いと証明できれば、投稿内容が本当のときでも名誉毀損による法的措置が可能となる余地はあります。

[参考記事] 名誉毀損の違法性阻却事由とは?

しかし、実際のところ、公共性・公益目的、そして非逸脱性は簡単に認められてしまいやすいため、投稿内容が嘘だと証明できなければ名誉毀損に基づく削除請求・発信者情報開示請求ができないことがほとんどです。
裁判所としては、民主主義の根幹である言論の自由を守るためには、広く表現の公共性を認めるべきと考えているようです。

もちろん、民主主義の助けに全くならないような投稿は例外です。風俗嬢への誹謗中傷や隣人トラブルがよくあるパターンです。

逆に言えば、それくらい下劣で悪質なものでないかぎり、投稿内容が真実ではないと証明することが名誉毀損で重要となるのです。

2.真実かどうか問題となる部分

表現の「重要な部分」について真実性が問題となります。
逆に言えば、細かい部分が現実とは矛盾していても、真実性ありとされるということです。

どこが重要な部分なのかは、「一般の読者の普通の注意と読み方」を基準に判断されます。
想定される読者を基準に、常識的に判断して社会的評価に繋がる部分はどこかを検討します。

また、「自分の意見ではない。他人から聞いたことだ」と責任逃れをしようとすることはできません。

「噂なので本当かはわからないけれど~」「友人から聞いた話なんだけど~」と書き込んだところで、本当かどうか判断されるのは「~」に当たる具体的な噂や伝聞の内容です。
「本当にSNSで噂が流れている」「確かに友人からLINEで話を聞いた」と言っても意味はありません。

3.事実適示型と意見論評型における真実性の要件

名誉毀損は、投稿内容に応じて二つの類型に分かれています。

  • 事実適示型:証拠により証明可能なことを主張している
  • 意見論評型:証明になじまない価値、善悪、優劣について感想を述べている
[参考記事] 名誉毀損の事実適示型と意見論評型の違い

真実性要件をめぐる最大のポイントは、事実適示型と意見論評型とで本当か嘘か証明すべき対象となる事実が異なること、ひいてはその違いが両者における真実性立証の難易度の格差につながっていることです。

(1) 事実適示型での立証対象

投稿が指し示している事実が、事実適示型での真実性の立証対象です。

上記の噂や伝聞形式などはもちろん、
・比喩:「~のようなものだ」
・推論:「~ではないだろうか」
と間接的に言及している事実も含め問題となります。

前後の文脈や読者の知識など次第では、事実自体が投稿内容に表れていなくても「黙示的に」、つまり暗黙のうちに主張している具体的事実があると理解できるときは、その事実が真実かどうか判断されます。

(2) 意見論評型での立証対象

意見論評型の名誉毀損において真実かどうか問題となるのは、名誉を害する意見論評が「前提としている事実」です。
意見論評それ自体が正しいか間違っているかは、裁判所が判断するものではありません。

あくまで、議論や評価の前提となっている事実が本当か嘘かを証明しなければいけません。
投稿の中で明示されている場合はもちろん、意見論評しか書いていないときでも、文脈などから前提になっている事実を想定します。

(3) 意見論評型のほうが反真実立証は難しい

インターネット上の誹謗中傷を名誉毀損で訴えるときは、できうる限り事実適示型だと主張します。
意見論評型では多くの場合、反真実性立証が失敗に終わってしまうからです、

「あの店はよくない店だ」と書かれているだけでは、真偽を問うべき具体的な事実が分かりませんから、「本当ではない」と主張立証すること自体が困難です。

意見論評の前提となる事実も書き込まれているケースであったとしても、反真実性の証明は簡単ではありません。
レビューや口コミは、投稿者の体験・経験に基づく感想だからです。

「A店でラーメンを食べたがおいしくなかった」という口コミは、「おいしくなかった」という部分がA店の名誉を毀損する意見論評です。このとき、前提事実は「A店でラーメンを食べたこと」であり、ラーメンを実際に食べているのであれば、前提事実は真実としか言いようがありません

もちろん、現実には食べていないのに嫌がらせで書き込んでいるケースもあり得ますが、監視カメラの映像など客観的な証拠で確実に証明する必要があります。

[参考記事] 名誉毀損の損害賠償|意見論評型より事実適示型で請求すべき理由

【真実だと誤信したときは故意過失なし】
内容が本当のことではなかったと証明できても、投稿者が「確実な資料・根拠に基づいて」「真実と信ずるについて相当の理由がある」ときは、故意・過失がないとして損害賠償請求が棄却されてしまいます。刑事裁判でも無罪です。事実だと間違えて信じてしまったとしても仕方がないのであれば、その責任は問われないというわけです。
ただし、「確実な資料・根拠」による「相当の理由」とは、プロのジャーナリストや研究者レベルの調査・研究レベルが求められるといってもいいでしょう。
しばしばデマを投稿した相手が「掲示板に書き込まれていた内容を信じた」「SNSで当事者と思われる人が情報を公開していた」などと主張してきますが、その程度で故意・過失が否定されることは、まずありえないでしょう。

5.まとめ

インターネット上に書き込まれた悪口が名誉毀損に当たるとしても、違法性阻却事由をすべて否定しなければ法的措置は取れません。
違法性阻却事由の中でも真実性は中心的な争点となるだけでなく、本当ではないと証明するハードルも高いものです。

ある投稿を事実適示としたうえで反真実性の立証を成功させ、名誉毀損に基づく法的措置を裁判所に認めさせるには、弁護士の助言が重要となります。

インターネット上の誹謗中傷でお困りの方は、ぜひ弁護士にご相談ください。

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