改正プロバイダ責任制限法の詳細

社会問題化するインターネット上での誹謗中傷への対策として、2022年10月までに、改正プロバイダ責任制限法が施行される予定となっています。

改正プロバイダ責任制限法では、使いにくさの指摘されていた発信者情報開示請求の制度が改善される予定です。
その結果、より円滑な投稿者の特定に繋がることが期待されます。

2022年施行予定・改正プロバイダ責任制限法について、改正のポイントを解説します。

1.2022年施行予定・改正プロバイダ責任制限法のポイント

改正プロバイダ責任制限法は、2021年4月28日に公布され、公布日から1年6か月以内(2022年10月27日まで)に施行される予定となっています。

改正のポイントは、主に以下の2点です。

  1. 発信者情報開示命令の新設
    以前より使いにくさが指摘されていた「発信者情報開示請求」を簡略化した「発信者情報開示命令」の制度を新たに設け、投稿者の特定を円滑化・迅速化することが意図されています。
  2. ログイン時情報の開示請求が可能に
    誹謗中傷等の投稿者をより特定しやすくするため、従来は認められていなかったSNSなどへのログイン時情報の開示が、今回の改正により新たに認められる予定です。

では、上記2点の改正ポイントにつき、その内容を詳しく見ていきましょう。

2.改正ポイント①|発信者情報開示命令

「発信者情報開示命令」は、従来から存在した「発信者情報開示請求」を簡略化し、誹謗中傷等の被害者にとってより使いやすくした制度です。

(1) 従来の開示請求の問題点

従来型の発信者情報開示請求でも、もちろん誹謗中傷の投稿者の個人情報を特定することができます。

しかし、従来型の手順で誹謗中傷の投稿者を特定するには、「①サイト管理者(コンテンツプロバイダ)に対して発信者情報開示請求を行う」「②インターネット接続業者(アクセスプロバイダ)に対して発信者情報開示請求を行う」という、2段階の発信者情報開示請求が必要になるケースが多いです。
そして大抵の場合、両者について裁判所に対する仮処分申立てを別々に行わなければなりません。

さらに、サイト管理者は、投稿に関するIPアドレス等の情報を短期間で削除してしまう傾向にあります。
また、投稿者が誹謗中傷投稿に用いた端末を解約した場合、インターネット接続業者の側でも、投稿者の個人情報を削除してしまう可能性があります。

そのため、発信者情報開示請求を行う前段階として、サイト管理者・インターネット接続業者のそれぞれにつき、裁判所に発信者情報消去禁止の仮処分を申し立てるのが一般的となっています。

上記のように多段階の裁判手続を要する結果として、投稿者の特定に至るまでの期間が非常に長く、煩雑で使いにくい点が問題として指摘されていました。

(2) 発信者情報開示命令により簡略化・迅速化

2022年施行予定の改正プロバイダ責任制限法では、従来型の発信者情報開示請求を簡略化した制度として、「発信者情報開示命令」が新設されます(現行の制度も残ります。)。
インターネット上の投稿によって権利を侵害された被害者は、裁判所に対して発信者情報開示命令の申立てを行うことができます(改正法8条)。

発信者情報開示命令には、以下の3点について、従来型の発信者情報開示請求が抱えていた問題点の改善が期待されています。

2段階の発信者情報開示請求が1つの手続にまとめられる

サイト管理者が投稿に係るIPアドレス等を取得・保管している場合、そのIPアドレスを用いて、投稿がなされた端末のインターネット接続業者を特定できます。

この場合、サイト管理者に対する発信者情報開示命令の手続において、裁判所はサイト管理者に対し、申立人(被害者)にインターネット接続業者の情報を提供するよう命じることができます(改正法15条1項1号)。

被害者はその後、インターネット接続業者に対する発信者情報開示命令を申し立てます。
その際、被害者がサイト管理者に通知した場合、サイト管理者はインターネット接続業者に対して、自らが所有する発信者情報(IPアドレス等)を提供することが義務付けられます(同項2号)。

上記の一連の流れの後、インターネット接続業者との関係で発信者情報開示の可否が審査されます。
裁判所によって権利侵害等が認められれば、インターネット接続業者から被害者に対して、投稿者の個人情報(氏名・住所等)が開示されます。

従来は、サイト管理者とインターネット接続業者に対する発信者情報開示請求は、完全に別の手続であり、両者の間で連携が取れていませんでした。
これに対して、発信者情報開示命令では、両者が実質的に一つの手続によって審理され、被害者視点で手続の簡略化が図られています。

消去禁止命令による発信者情報の保全

サイト管理者やインターネット接続業者により、発信者情報が削除されることを防ぐ目的で行う「発信者情報消去禁止」の申立ては、従来は独立した仮処分手続によって行わなければならず、被害者にとって非常に煩雑でした。

これに対して、改正プロバイダ責任制限法では、裁判所がサイト管理者・インターネット接続業者に対して、発信者情報開示命令の手続の枠内で「消去禁止命令」を行うことを認めています(改正法16条)。

その結果として、被害者は、発信者情報消去禁止の仮処分を申し立てる手間が省けます。

非訟事件化による手続の迅速化

改正プロバイダ責任制限法で新設される発信者情報開示命令の手続は、終局的な権利義務の確定を目的としない「非訟事件」とされています。
非訟事件では、裁判所による職権調査が認められているほか、仮処分命令等に比べて簡略化された「決定」という形式による処分がなされます。

仮処分申立てから非訟事件へと事件の形態が変化することにより、審理における裁判所の負担が軽減されるため、判断の迅速化が期待されます。

3.改正ポイント②|ログイン時情報の開示

改正プロバイダ責任制限法における、もう一つの重要な改正ポイントは、いわゆる「ログイン情報」の開示が認められるようになる点です。

インターネット上での誹謗中傷が社会問題化した背景には、SNSの利用拡大があります。

SNSは、匿名で投稿できるサイトが多く、投稿者を特定するには発信者情報開示請求を要するケースが大半です。

しかしSNSの場合、サイト全体での投稿数が膨大になるため、各投稿に紐づくIPアドレス等を、サイト管理者が保管していないケースもよく見受けられます。
多くのSNS業者は、利用者ログイン時のIPアドレスやタイムスタンプを取得・保管している一方で、各投稿に関する発信者情報を保管していないのです。

このようなSNSサイトで誹謗中傷が行われた場合、投稿者を特定するには、ログイン時情報の開示を求めるほかありません。
しかし、従来型の発信者情報開示請求が創設された際には、ログイン時情報の開示は必ずしも想定されておらず、開示請求が認められるかどうかについて見解が分かれていました。

改正プロバイダ責任制限法では、ログイン時情報に関する発信者情報開示請求・発信者情報開示命令が、明文で認められる予定となっています(改正法2条6号、5条1項1号~3号)。

4.改正プロバイダ責任制限法の主なメリット

上記の各改正による、誹謗中傷の被害に遭った方が投稿者を特定する際のメリットをまとめると、以下のとおりです。

  1. 早期に誹謗中傷の投稿者を特定できるようになる
    発信者情報開示命令の新設により、従来型の発信者情報開示請求に比べると、手続に要する時間が大幅に短縮される可能性があります。
    従来型の発信者情報開示請求では、投稿者の特定に6~10か月程度を要しましたが、発信者情報開示命令の手続による場合は、その半分程度の期間で投稿者を特定できることが見込まれます。
  2. 発信者情報開示に要するコストが下がる
    発信者情報開示命令を申し立てる場合、従来よりも手続が簡略化される分、弁護士に依頼する際の費用も比較的抑えられる可能性があります。
    ただし、弁護士費用の金額・内容については、事件ごとに異なるので、詳細は弁護士にご確認ください。
  3. SNS上の匿名投稿者を特定できるケースが増える
    発信者情報開示請求・発信者情報開示命令によって、ログイン時情報の開示が認められるようになる結果、SNS上の匿名投稿者を特定できるケースが増えることが期待されます。

5.誹謗中傷の被害は弁護士にご相談ください

誹謗中傷の投稿を発見した場合、速やかな投稿の削除、匿名投稿者の特定から損害賠償請求訴訟まで、手続の大部分を弁護士が代理し、被害者が適正な補償を受けられるようにサポートいたします。

インターネット上で誹謗中傷の被害を受けた方は、お早めに弁護士へご相談ください。

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