信用毀損罪とは?成立要件・具体例・損害賠償請求の方法
虚偽の情報を流して他人の信用を毀損した場合、「信用毀損罪」による処罰の対象となります。
また被害者は、信用毀損を行った加害者に対して、損害賠償を請求することができます。
信用毀損罪が問題となるケースでは、加害者の素性が不明であることが少なくありません。
加害者の特定から損害賠償請求・刑事告訴に至る一連の手続は、弁護士にご相談いただいた方がスムーズに進めることができます。
今回は、信用毀損罪の成立要件や具体例、信用毀損の被害を回復するための方法などを解説します。
1.信用毀損罪とは?
信用毀損罪とは、虚偽の風説を流布し、または偽計を用いて他人の信用を毀損した場合に成立する犯罪です(刑法233条前段)。
(1) 信用毀損罪の構成要件
信用毀損罪は、以下の①②の要件をいずれも満たす場合に成立します。
① 虚偽の風説を流布したこと、または偽計を用いたこと
「虚偽の風説の流布」とは、客観的真実に反するうわさや情報を、不特定または多数人に伝えることを意味します。
直接伝えた相手方が少数であっても、その者を介して多数の者に伝わるおそれがある場合には、「虚偽の風説の流布」に該当し得ます(大審院昭和12年3月17日判決)。
「偽計」とは、他人を欺き、または他人の錯誤や不知を利用することを意味します。
② ①によって他人の信用を毀損したこと
「信用」には、他人の支払能力または支払意思に関する信用のほか、商品の品質に対する社会的信頼も含まれます(最高裁平成15年3月11日判決)。
「毀損」とは、他人の信用を低下させることを意味します。
なお、現実に信用が毀損されたことは不要であり、そのおそれがあれば足りる「危険犯」と解されています(大審院大正2年1月27日判決)。
信用毀損罪の法定刑は、「3年以下の懲役または50万円以下の罰金」です。
【個人も信用毀損罪の被害者になり得る】
前述のとおり、信用毀損罪によって保護されている「信用」には、他人の支払能力または支払意思に関する信用のほか、商品の品質に対する社会的信頼などが含まれます。
特に前半の支払能力または支払意思に関する信用は、経済活動に関わる主体であれば、個人・法人を問わず重要なものです。
そのため、信用毀損罪の客体(被害者)には、法人のみならず個人も含まれます(事業主でない一般消費者も含む)。
(2) 信用毀損罪と偽計業務妨害罪・名誉毀損罪との違い
信用毀損罪と同様に、何らかの情報を流すことによって他人に損害を与える犯罪としては、他に「名誉毀損罪」(刑法230条1項)と「偽計業務妨害罪」(刑法233条後段)が挙げられます。
名誉毀損罪は、他人の社会的評価を害する言動を公然と行った者について成立します。
信用毀損罪の保護する「信用」は、経済的側面における社会的信頼を意味するのに対して、名誉毀損罪における「名誉」は、社会的評価全般を広く意味するという違いがあります。
また、信用毀損罪とは異なり、名誉毀損罪は、摘示した事実が真実である場合にも成立します。
[参考記事] 名誉毀損で慰謝料請求したい|請求の要件・金額の相場偽計業務妨害罪は、虚偽の風説を流布し、または偽計を用いて、他人の業務を妨害した者について成立します。
信用毀損罪が保護するのが「信用」であるのに対して、偽計業務妨害罪は業務活動の自由を保護している点が異なります。
2.信用毀損罪が成立するケースの具体例
信用毀損罪が成立するのは、警察や報道機関に対する虚偽告発が行われた場合や、メディアが自ら掴んだ情報を基に虚偽報道をした場合などです。
また最近では、SNSや掲示板など、インターネット上で行われる誹謗中傷も、信用毀損罪に該当し得る行為として問題になっています。
(1) 警察や報道機関への虚偽告発
警察や報道機関に対して、他人の信用を毀損し得る虚偽の情報を提供した場合、信用毀損罪に該当する可能性があります。
警察や報道機関に情報を伝えると、その情報がメディア等を通じて拡散され、被害者の信用に深刻な悪影響を及ぼすおそれがあるからです。
最高裁平成15年3月11日判決の事案では、被告人がコンビニエンスストアで購入した紙パック入りオレンジジュースに、家庭用洗剤を自ら注入したうえで、警察官に対して異物が混入していたと虚偽申告を行った事実が認定されました。
その情報が、警察から報道機関に対して発表され、全国的に報道されたため、被害者であるコンビニエンスストアは大きな損失を受けました。
最高裁は、被告人による上記の行為につき、粗悪な商品を販売しているという虚偽の風説を流布し、コンビニエンスストアが販売する商品の品質に対する社会的な信頼を毀損したとして、信用毀損罪の成立を認めた原審判決を支持しました。
(2) メディアによる虚偽報道
メディアが「スクープ」などと称して、他人の信用を毀損し得る虚偽の情報を報道した場合、担当者などに信用毀損罪が成立する可能性があります。
なお、メディアによる虚偽報道に信用毀損罪が成立するのは、その情報が虚偽であることを、担当者などが知っていた場合に限られます。
反対に、情報が真実だと信じて報道したものの、後から虚偽であることが判明した場合には、信用毀損罪は成立しません。
ただし、虚偽報道についてメディア側に過失がある場合には、被害者はメディアに対して損害賠償を請求する余地があります(民法709条)。
(3) SNSや掲示板などでの誹謗中傷
インターネット上のSNSや掲示板などに、他人の信用を毀損し得る虚偽の情報を投稿した場合、信用毀損罪に該当する可能性があります。
SNSや掲示板などは、不特定多数の人が閲覧し得るため、虚偽情報が広く知れ渡って信用が毀損されるおそれがあるからです。
例えば、以下のような内容の投稿は、信用毀損罪に該当する可能性が高いと考えられます(摘示されている事実が虚偽の場合に限ります)。
- 「A社は倒産寸前なので、今後取引すべきではない」
- 「B社の発売しているXという食品は、産地が偽装されている」
- 「C社取締役が不祥事を起こしたので、今後C社の株価は暴落するだろう」
3.信用毀損の被害を受けたら早急に対処すべき理由
メディアやインターネットなどを通じて信用毀損の被害を受けた場合、速やかに被害回復のための対応をとることをお勧めいたします。
信用毀損行為への対応が遅れると、風評被害が際限なく広がってしまうことが予想されます。
テレビや新聞など、従来型メディアの拡散力は未だ強力です。
また、SNS等の発展により、インターネット上の投稿が拡散されるスピードも飛躍的に速くなっています。
風評被害が拡大した場合、自社の売り上げが大幅に減少したり、就職希望者が大幅に少なくなってしまったりする事態になりかねません。
そうなる前に、早めの対応をとることが大切です。
4.信用毀損の被害を回復するための方法
メディアやインターネットを通じた信用毀損の被害を受けた場合、被害の回復を図るためには、以下に挙げる方法をとることが考えられます。
(1) 問題表現の削除を請求する
虚偽情報を報道しているメディアや、虚偽情報が掲載されているウェブサイトの運営会社は、情報が虚偽であることの確固たる証拠を示されれば、削除請求に応じる可能性があります。
まずは電話やウェブ上の問い合わせフォームなどから、メディアやウェブサイトの運営会社に対して削除依頼を行いましょう。
もし削除依頼に応じなければ、裁判所に対して投稿削除の仮処分を申し立てることも考えられます。
その場合は、裁判所での手続が必要になるため、弁護士にご依頼いただくことをお勧めします。
(2) 加害者を特定する
加害者の法的責任を追及したい場合には、加害者が誰であるかを特定しなければなりません。
特に、インターネット上での匿名投稿の形で信用毀損が行われた場合、一見して加害者が誰であるかが明らかではありません。
しかしその場合でも、発信者情報開示請求(プロバイダ責任制限法4条1項)等を利用して、加害者を特定できる可能性があります。
発信者情報開示請求とは、インターネット上の誹謗中傷などの被害者が、損害賠償請求等を行う前提として、加害者の個人情報の開示を求める請求です。
サイト管理者やインターネット接続業者に対して、発信者情報開示請求を行うことにより、投稿者の個人情報を特定できる場合があります。
発信者情報開示請求は、裁判所に対する仮処分申立てを通じて行うのが一般的です。
開示までに長期間を要するケースもありますが、弁護士にご依頼いただければ迅速に対応いたします。
[参考記事] ネットで誹謗中傷した犯人(投稿者)を特定できる?(3) 加害者に損害賠償を請求する
加害者の特定が済んだら、加害者に対して損害賠償を請求しましょう。
損害賠償請求を行うに当たっては、信用毀損によって生じた損害額を見積もったうえで、加害者との示談交渉や訴訟に臨む必要があります。
弁護士にご依頼いただき、法的な観点から十分な検討と準備を行えば、適正額の損害賠償を受けられる可能性が高まります。
(4) 加害者を刑事告訴する
加害者に対して強い処罰感情を抱いている場合には、加害者を刑事告訴することも考えられます。
刑事事件の捜査を行うのは警察官・検察官ですが、被害者としても、被害の内容や大きさを捜査機関に伝えることで、犯罪捜査に協力することは可能です。
損害賠償請求と併せて、刑事告訴についても弁護士がサポートできますので、お気軽にご相談ください。
→刑事告訴
5.信用毀損の被害は弁護士にご相談ください
信用毀損による被害の拡大を防ぐためには、迅速に対応することが非常に重要です。
弁護士にご相談いただければ、被害に遭われた方に代わって必要な手続を行い、1日も早い被害回復を実現できるように尽力いたします。
メディアやインターネットを通じた信用毀損の被害にお悩みの方は、ぜひお早めに泉総合法律事務所の弁護士までご相談ください。