Twitterへの削除請求・発信者情報開示請求
Twitterは世界最大級のSNSの一つであり、日本でも広く利用されています。
一方で、その拡散力や、誰もがリプライで話しかけられる特性から、攻撃的な書き込みの応酬やプライバシーの暴露、なりすましによる嫌がらせなどの被害も多発しています。
ここでは、Twitterの書き込みについて、裁判所を用いた投稿の削除請求、そして投稿者をつきとめる発信者情報開示請求について説明します。
なお、2022年10月1日から施行された改正プロバイダ責任制限法により、今後適切な対処方法が変わってくる可能性もあります。
1.削除請求
誹謗中傷ツイートによる権利侵害を解消するには、まずそのツイートを削除することを考えます。
ツイート単位、あるいは相手のアカウントについて、ヘルプページなどからTwitter社に対してツイートの非公開化、あるいはアカウント凍結を求めることができます。
もっとも、この要求には強制力はありません。
Twitter社が削除を拒否した場合には、裁判所を利用して削除を求めることになります。
削除請求では、正式な裁判は時間がかかりすぎるためあまり用いられません。ほとんどの場合、より迅速な手続である「仮処分」を利用されていました。
なお、今後は改正プロバイダ責任制限法が新設した発信者情報開示命令制度による「非訟事件手続」で審理されるでしょう。
期間
仮処分の場合、申立てから削除まで最短で1か月程度が目安となります。Twitter社が反論してくると3ヶ月程度に長引く可能性があります。
申立て先
被害者の住所を管轄下においている裁判所に仮処分を申し立てます。
東京地方裁判所など一部の裁判所では、その数日後に裁判所が申立て内容を確認する債権者面接という手続があります。
呼び出し手続
申立てが適切だと判断された後、裁判所は当事者の意見を確認する「双方審尋手続」に呼び出すために、Twitter社のアメリカ本社宛に国際スピード郵便(EMS)などで連絡をします。
呼び出し手続のために、申立てから双方審尋手続開始まで2~3週間ほどかかります。
双方審尋手続
裁判所が、1~2週間ごとに申立人とTwitter双方の意見を確認し、削除仮処分決定を発令すべきか判断します。
Twitter社は反論する傾向が強かったものの、最近は反論が少なくなりました。
削除仮処分決定
双方審尋を経て裁判所が削除仮処分の要件があると認めれば、仮処分決定が発令されます。
Twitter社は担保を不要とするため、通常ならば仮処分発令の条件となる供託金の準備は不要となっています。
削除
削除仮処分決定発令から2~3週間ほど経過すると、Twitter社はツイートを削除します。
もっとも、その後も検索結果に当該ツイートが表示されてしまうことがあります。この時は、Googleなど検索サービス会社にさらに削除請求をしましょう。
[参考記事] 検索結果の削除請求について(総論)2.発信者情報開示請求
ツイート削除だけでなく、刑事告訴や損害賠償請求を検討しているなら、投稿者の住所氏名を特定するために発信者情報開示請求をします。
過去では、Twitterへの発信者情報開示請求は迅速に動く必要性が高く、失敗するリスクが無視できませんでした。
しかし、発信者情報開示請求を定めた、いわゆる「プロバイダ制限責任法」が改正されたことで、相手を特定できる可能性が高くなると期待されています。
(1) IPアドレス開示請求
IPアドレスとはパソコンやスマホなどがインターネットに接続するときに割り振られる番号のようなものです。
住所などを保有していない匿名サイトへの投稿については、まず投稿のIPアドレスなどをサイト管理者から引き出し、その情報をもとに投稿に利用されたプロバイダ(ドコモなどの通信会社)を探し出して、プロバイダに投稿者の住所氏名の開示を裁判で求めます。
ところが、Twitterは個別のツイートについてIPアドレスを記録していないため、プロバイダへの住所氏名開示請求が認められないおそれがありました。
Twitterが開示するIPアドレスは、ログインした時点の「ログイン時IPアドレス」です。裁判所は「ツイートの直前にログインしている場合だけ、ログイン時IPアドレスを使って住所氏名開示請求をしてよい」と判断する傾向を強めていました。
開示請求で基本となるIPアドレスは、誹謗中傷の投稿がされた時のIPアドレスである「投稿時IPアドレス」です。投稿こそが権利侵害を起こしているのですから、開示請求も投稿について行われるべきと言えるからです。
しかし、ログインしたという情報は、誹謗中傷の投稿とは厳密には別のものです。ログイン後に誰かが他人のパソコン・スマホから投稿した可能性もあるからです。
そのため、ログインがツイートの直前でない場合、プロバイダに対する開示請求が認められないリスクがあったのです。
しかし、プロバイダ制限責任法の改正により、ログイン時IPアドレスを利用した発信者情報開示請求が正面から認められることとなりました。
これにより、Twitterから開示されたログイン時IPアドレスをつかった通信会社への住所氏名開示訴訟がスムーズになると考えられます。
(2) 開示請求のタイムリミット
ツイートから開示決定まで60日以上かかってしまうと、開示請求が失敗してしまう可能性は急速に高まります。
Twitter社がログイン時IPアドレスを開示する期間は、開示決定が送達されてから60日前までにすぎません。
仮処分の場合、申立てから決定が出るまで少なくとも1か月前後かかりますから、遅くとも投稿から1か月以内、できれば2週間以内に申し立てをしなければ、「投稿直前のログイン」を確認できる可能性はなくなってしまうでしょう。
発信者情報開示請求では、プロバイダが通信記録を消去してしまって時間切れとなるリスクが一般的にありますが、Twitterはそれに加えて、ログイン時IPアドレスの開示期間も問題となるのです。
しかし、プロバイダ制限責任法改正後は、アカウント情報の開示請求にかかる期間が短くなるとも予測されています。
新しく定められる「発信者情報開示命令」により、電話番号やメールアドレスなどを請求するときも、裁判よりも手続が簡略化されるからです。
(3) アカウント情報の開示請求
TwitterからIPアドレスを開示させる方法では、上述のとおりログイン時IPアドレス問題のほか、プロバイダの通信記録保存切れなどIPアドレス経由での探索一般に生じる失敗リスクがあります。
そのリスクに備えて、Twitterに対してその保有する個人情報を裁判で開示請求する方法も検討しましょう。
Twitterを利用するにはメールアドレスの登録が必要です。また、2段階認証用の電話番号が保存されているときもあります。
そこで、Twitter相手に直接、メールアドレスや電話番号を開示するよう裁判をするのです。
しかし、アメリカのTwitter本社に対して裁判をするとなると、手続に1年以上は時間がかかってしまいます。
最初からTwitter相手に裁判をするのは得策ではありません。
【ディスカバリ制度について】
アメリカ固有の証拠開示制度であるディスカバリ制度を利用すると、より短期間でTwitter社からメールアドレスや電話番号の開示を受けられる可能性があります。
もっとも、Twitter社は開示決定をすんなりとは受け入れず争ってくるため、結局は日本で裁判をした場合と同じ期間がかかってしまうこともあります。
3.まとめ
Twitterは、削除請求や発信者情報開示請求をアメリカ本社でしか受け付けていないため、裁判所を用いた手続には法律的な知識の必要性が高くなっています。
特に、発信者情報開示請求ではログイン時IPアドレスにかかわる処理・判断や、アカウント情報の開示請求のためにより専門性が求められます。
一方で、Twitterや裁判所の運用も変わり続けています。
Twitterに対する削除仮処分や発信者情報開示請求をご検討していらっしゃるのであれば、弁護士までご相談ください。