侮辱罪とは|侮辱罪にあたる言葉などの事例
誰でも気軽に自分の意見をネット上で発信できる世の中になったことで、いわれのない誹謗中傷を受けてしまう機会も残念ながら飛躍的に増えています。
では、ネット上で誹謗中傷を受けた場合、「侮辱罪」で訴えることはできるのでしょうか。
ここでは、侮辱罪がどのような犯罪で、どのような場合に成立するものなのかを解説します。
1.侮辱罪とは?
侮辱罪は、刑法231条で「事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。」と規定されている犯罪です。
つまり、侮辱罪が成立する要件は、①事実を摘示せずに、②公然と、③人を、④侮辱することです。
①「事実を摘示せずに」
この要件は、名誉毀損罪との区別のための要件です。
名誉毀損罪は「事実を摘示」することにより成立する侮辱罪とは別の犯罪です。この「事実の摘示」というのは「人の社会的評価を害するに足りる具体的な事実を、口頭、文書、図画など一切の方法で他人が認識できる状態におくこと」です。
問題となる言動が「事実の摘示」にあたる場合には、名誉毀損罪の成立を考えることになり、侮辱罪はこれ以外の言動の場合、ということになります。
名誉毀損罪と侮辱罪の違いについては、以下のリンク先で詳しく説明していますので、ご参照ください。
リンク:名誉毀損罪と侮辱罪の違い
②「公然と」
不特定または多数の者が直接に認識できる状態にすることが必要です。
このうち不特定というのは、相手方が特定の関係によって限定された者ではない、ということです。
また、多数の者とは、社会一般に知れわたる程度の人数という意味です。
「侮辱」という言葉からは、一対一で面と向かって悪口雑言を言うような場面が思い浮かびがちですが、他に誰も聞いていない場所での面と向かっての会話、直接のメールや手紙、電話などによる場合は、いずれも「公然と」とは言えず、侮辱罪は成立しません。
ただ、特定の少数の人に対して誰かを侮辱する言動を行った場合であっても、その内容が人から人に伝えられて(伝播)不特定または多数の人が認識できる可能性があれば「公然と」という要件を満たすとされています。
そのため、極めて少数の特定の人しか見ていないネット上の掲示版などであっても、誰でも見られるものであれば、公然性がある、ということになります。
また、身内にしか分からないあだ名や隠語を使うといった、特定の人にしか分からない誹謗中傷の場合でも、それで公然性が否定されるものではありません。
話題にされている人物が誰のことか分かる人が情報を付け加えて伝播していくことは当然に予想されることだからです。
③「人を」
侮辱する相手には制限がありません。たとえ自分が侮辱されたとは分からない相手(例えば赤ん坊)であっても、感情を持たない会社などの法人や法人格のない団体相手でも、侮辱罪は成立します。
ただし、特定の「人」である必要があるため、不特定の誰か、例えば「男は」「女は」「○○世代は」「○○社の社員は」といった抽象的な対象に対する侮辱行為では、侮辱罪は成立しません。
④「侮辱する」
侮辱とは「他人の人格を蔑視する価値判断を示すこと」と説明されます。
いわゆる誹謗中傷、罵詈雑言の多くは「事実の摘示」ではなく、侮辱罪の対象となる「価値判断」ということになります。それが本当のことか嘘なのかが検証できるものが「事実」であり、そうでない個人の感じ方の問題であるのが「価値判断」と考えると分かりやすいでしょう。
例えば「バカ」「アホ」「マヌケ」「ハゲ」「デブ」「チビ」「ブス」などのたぐいの言葉です。「バカ」かどうかというのは何か基準があって決まっている事実なのではなく、単なる人の主観の問題ということです。
【侮辱罪について法律が定めている刑罰】
侮辱罪について法律が定めている刑罰は、拘留または科料です。拘留というのは1日以上30日未満の範囲で決められた期間、刑務所などの刑事施設に収容される刑罰であり、科料とは1000円以上1万円未満の範囲で決められたお金を徴収される刑罰です。
このように侮辱罪で定められている刑罰は、名誉毀損罪(3年以下の懲役・禁錮、または50万円以下の罰金)と比べても極めて軽く、昨今大きな社会問題となっているネット上の誹謗中傷被害に対応できていないとの問題が指摘されています。そのため、現在、法改正により侮辱罪の厳罰化が検討されており、1年以下の懲役・禁錮または30万円以下の罰金を加える方向で調整がなされています。
なお、言われた相手が実際に侮辱されたと感じるかどうかというのは、侮辱罪の成立には直接関係がありません。
侮辱罪も名誉毀損罪と同じく、社会的な人の評価を害する犯罪とされていて、一般人からみて、客観的にその言動が「人格を蔑視する価値判断」といえるかどうかの問題なのです。
また、現実に社会的な人の評価が害されたかどうかも犯罪が成立するかどうかには関係がなく、上に挙げた要件を満たす侮辱行為がなされれば、それで侮辱罪が成立します。
従って、侮辱罪の未遂(犯罪行為は行われたものの結果は発生しなかった)という考え方はありません。
ただし、被害者が受けた屈辱感の大きさ、例えば被害者が侮辱行為を苦にして自殺してしまった、心を痛めて心療内科に通院しているといった事情は、侮辱行為による被害の大きさを表すものとして、検察官が起訴するかどうかの判断や、有罪の場合に科される刑罰の重さに影響します。
2.SNS上の誹謗中傷で侮辱罪が成立し得る具体例
- ○○って本当にバカだよな
- ○○ほどの人間のクズはこの世の中にいない
- ○○は頭が悪い
- ○○はこの世にいらないから消えろ
- ○○は日本から出て行け
○○は、具体的な人の氏名である場合はもちろん、特定が可能であれば一部伏せ字の場合、イニシャルの場合、A社の社長、B社の営業部長C(イニシャル)といった場合でも侮辱罪が成立します。
また、「○○って××だよね」というように伏せ字で記載し、その部分だけでは侮辱しているかどうか分からない書き方であっても、他の書き込みの文脈から判断してその人を侮辱する内容であることが容易に読み取ることができれば、侮辱罪は成立し得ます。
「この世にいらないから消えろ」「日本から出て行け」といった言葉も、そのように価値の低い人間である、といった価値判断を示したものとして、侮辱罪の対象となり得ます。
3.侮辱罪で投稿者を訴えることはできる?
投稿者に刑罰を科すためには、警察が捜査した結果、検察官が起訴をして、刑事裁判により裁判官が有罪判決をする必要があります。
刑事手続にあたり犯罪被害者ができることは、警察に被害届を出して捜査を促したり、「告訴」つまり犯罪事実を伝えて処罰を求めたりするといった行動が中心になります。
ただし、侮辱罪は被害者の告訴がなければ検察官が起訴することができない「親告罪」です。
そのため、被害者は、告訴するかどうかの選択により、投稿者に刑罰を科すかどうかの決定権を持っているといえます。
逆に言えば、被害者の告訴がなければ警察は動きません(動けません)ので、投稿者に刑罰が科せられることを希望するのであれば、警察に告訴をすべきであるということになります。
告訴ができる期限は、法律上、被害者が犯人を知ってから6か月以内と定められていますから、投稿者が誰か分かっている場合には、この期間が過ぎないように気をつける必要があります。
投稿者が誰か分からない場合には、被害届を出して警察の捜査を待つほかに、自分から積極的にSNSなどの運営者やプロバイダに発信者情報開示請求を行って特定することが考えられます。
発信者情報開示請求についての詳細は、以下のリンク先で詳しく説明していますので、ご参照下さい。
[参考記事] ネットで誹謗中傷した犯人(投稿者)を特定できる?なお、侮辱罪が成立するような事案では、投稿者への民事上の責任追及(不法行為に基づく損害賠償(慰謝料)請求)も考えられますが、投稿者が誰か分からなければ、民事上の請求もできません。
4.まとめ
実際にご自身がSNS上で誹謗中傷を受けてしまった場合の警察への相談、告訴状の書き方、発信者情報開示請求の手続、その後の民事訴訟の提起などは、専門的な知識が必要となるため、ご自身で行うのはかなり難しいことです。
被害を受けた場合には、なるべく早く、SNS上の誹謗中傷被害対策に詳しい弁護士にご相談になることをお勧めします。