インターネット上の誹謗中傷に対する損害賠償請求の流れ
名誉毀損やプライバシー侵害に当たるような投稿をネット上でされてしまったとき、損害賠償請求は被害回復や再発防止のために効果的な手段となります。
もっとも、多くの誹謗中傷は匿名でされますので、請求相手の特定のために発信者情報開示請求など高度な手続が必要です。
人格権侵害は、表現の自由との兼ね合いもあって必ず賠償請求が認められるとは限らず、事前に全体の流れと見通しを立てることが大切になってきます。
ここでは、インターネット上の誹謗中傷に対して損害賠償請求する際の手続の流れと、段階ごとのポイントを説明します。
1.投稿の特定
損害賠償請求をはじめとしたインターネットの誹謗中傷対応は、損害賠償請求したい投稿を特定することから始まります。
特定の決め手はURLです。ブラウザでサイトを閲覧したとき上部に出る「http」で始まる文字列です。
URLはインターネット上における情報の所在地を指し示しています。
投稿先サイトのURLも把握しておくことで、どの投稿に対して損害賠償請求したいのかを明らかにできるのです。
スマホアプリからSNSを確認しても投稿のURLを確認できないときは、パソコンのブラウザから投稿を検索してみてください。
確認できたURLは弁護士が投稿内容を検討するために必要となりますから、相談予約メールに記入しておきましょう。
また、投稿が削除されてしまったときに備えて、URL付きで投稿を印刷、あるいはpdfデータにして保存しておきましょう。
掲示板の投稿などではURLは画面の枠に収まらないほど長くなってしまっていることがあります。ご利用のブラウザでURL全体を印刷する方法を検索エンジンなどで調べてください。
パソコンやスマホなどの操作がうまくできないようであれば無理する必要はありません。弁護士に依頼して、すぐに証拠化するようお願いしましょう。
2.損害賠償請求するかどうかの検討
法律相談で弁護士のアドバイスを受けながら、損害賠償請求すべきか、それとも投稿の削除など他の対策にとどめるべきか落ち着いて検討しましょう。
(1) 損害賠償請求の失敗リスク
誹謗中傷されたら必ず賠償請求すればいいというわけではありません。投稿の削除や警察への刑事告訴なども重要な手段です。
特に、損害賠償請求は投稿者の特定が前提となることもあり、失敗してしまうリスクもあります。
「投稿者の特定ができなかった」「損害賠償請求が認められなかった」「賠償金より費用が多く赤字となった」など、誹謗中傷への損害賠償請求がうまくいかないリスクは、法律相談で事前にある程度は予測できるものもあれば、やってみなければわからないものもあります。
発信者情報開示請求は失敗する可能性が無視できません。裁判所は必ず損害賠償請求を認めてくれるとは限りませんし、慰謝料相場は100万円程度とさほど高額でないため、開示費用を考えると赤字になるおそれもあります。
法律相談でリスク説明がされるでしょうから、弁護士の説明を冷静に受け止めてご判断ください。
(2) 損害賠償請求か削除請求か
被害の原因である投稿を削除することは、誹謗中傷対策では第一の選択肢となります。
もっとも、いくら削除しても投稿が復活してしまうケース、削除が炎上につながりかねないケースでは、損害賠償請求による再発防止のほうが効果的です。
なお、削除により発信者情報開示請求ができなくなるおそれがあるため、「損害賠償請求まではしないでいいか」と考えていても、弁護士に相談するまでは削除依頼を出さないでおきましょう。
(3) 損害賠償請求か刑事告訴か
警察に被害届を出して刑事告訴すれば、犯罪として捜査してもらえます。
罰金が賠償金として手に入れられるわけではありませんが、投稿者は前科・前歴が付きますし、警察の捜査対象となることで強い社会的制裁が与えられます。
ただし、刑事告訴をしても警察はなかなか動かず、動いたとしても有罪にまでなることは稀です。
こちらで発信者情報開示請求をしなければ捜査が進展しないこともあり、そうであるなら損害賠償請求で事実上の制裁のみならず金銭的な補償を目指したほうが良いでしょう。
3.発信者情報開示請求をする
損害賠償請求すると決めたら、請求相手の投稿者の住所氏名を調査します。
いわゆるプロバイダ制限責任法に定められた発信者情報開示請求手続を利用し、IPアドレス(電子機器の識別番号)やログ(サイト管理者や通信会社が保有する通信記録)をたどっていきます。
運営者が通販やオークションなどを展開しているサイト(アマゾンやヤフーなど)では、サイト管理者が投稿者の住所氏名を保有している可能性があります。
その開示をサイト管理者に対して裁判で求めます。
一方、匿名掲示板やSNSの管理者が投稿者の個人情報を把握していることは、ほぼありません。
しかし、投稿がいつどこから発信されたのかに関するデータ、IPアドレスやタイムスタンプを記録しています。
そのデータをサイト管理者に開示させ、さらに通信会社から住所氏名の開示を受ける2段階の手続が基本となります。
4.損害賠償請求
投稿者の住所・氏名がわかったら、相手を訴えられるようになります。
とはいえ、まずは交渉することも検討しましょう。
(1) 示談交渉
内容証明郵便で慰謝料の支払いや謝罪、再発防止などを求めます。
裁判ではないので交渉を強制することはできませんが、裁判所の相場よりも慰謝料が高額になる可能性があります。
特に、社会的な地位がある・公的な職に就いている・誹謗中傷が非常に悪質など、投稿者に事を荒立てたくない事情があるケースでは、示談交渉により高額な慰謝料を獲得できるケースがあります。
投稿者と和解契約を締結するときは、謝罪・慰謝料の支払い・再発防止などの条項を入れましょう。
誹謗中傷を秘密にする代わりに慰謝料の増額するのなら、「口外禁止条項」も追加します。
ネットトラブル自体の存在、または加害者の氏名や中傷内容などを被害者側も秘密にすると約束する条項です。
(2) 裁判
示談交渉が決裂した、または相手が交渉に応じないのであれば裁判所に訴訟を起こしましょう。
(投稿内容などから強硬な姿勢を取ってくることが推測されるならば、示談交渉なしで裁判にすることも考えられます。)
①訴えの提起
訴える先の裁判所ですが、投稿者の住所だけでなく被害者の住所も基準にできますので、ご在住の都道府県を管轄する裁判所も選べます。
請求する損害賠償金の金額が140万円以下ならば簡易裁判所へ、140万円を超えるのであれば地方裁判所に訴えを提起します。
②裁判手続
多くの場合、通常の裁判を利用します。
裁判所に訴状を提出後は1か月ごとに相手と主張のやり取りをしていき、判決までは1年前後かかります。
③判決
勝訴判決が確定すれば、支払いに応じない相手の銀行口座や給料を差し押さえるなど、その判決をもとに強制的に賠償金を取り立てられるようになります。
なお、判決が確定した後でも交渉で和解することは可能です。
慰謝料増額は見込めずとも、相手が差し押さえに抵抗して手間がかかってしまうことを防止できるなど、事実上の経済的メリットが見込めます。
5.まとめ
ネット上の誹謗中傷に対する損害賠償請求は、発信者情報開示請求など、専門的な手続がその前提となりがちで、裁判所の判断も基準がわかりにくく認める賠償金額が高くなりにくいなど、数々のハードルがあります。
それでも、悪口やプライバシーで傷ついた心を癒し、将来の不安を解消するためには、損害賠償請求は効果的な手段の一つであることに変わりはありません。
インターネットの誹謗中傷でお困りの方は、ぜひお気軽に弁護士にご相談ください