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損害賠償の請求

ネット誹謗中傷における慰謝料・損害賠償金の相場

インターネットトラブルにおける損害賠償金の相場は、10万円〜70万円がおおよその目安となります。
一般的な金額は伸び悩んでいますが、書き込みが悪質で被害が大きく、示談交渉に持ち込んだ場合など、個別的事情次第では100万円を超える賠償金となることもあります。

ここでは、インターネット上の誹謗中傷の損害賠償金(慰謝料)の大まかな相場を見た後、増額・減額の事情、そして手続全体で見て被害者が黒字を増やす方法をご説明します。

1.損害賠償金の大まかな相場

インターネット上で誹謗中傷を受けたときに請求できる損害賠償金は、主に精神への損害を賠償する「慰謝料」です(他に、裁判にかかった弁護士費用の一部や調査費用を含むことがあります)。
企業であっても、財産以外の業務上の信用や従業員の士気への悪影響が生じますので、個人における慰謝料のように「無形損害」と呼ばれる損害を賠償請求できます。

[参考記事] ネット誹謗中傷で投稿者に請求できる損害賠償金の種類

誹謗中傷により、個人の心や法人の信用は傷つきます。
しかし、その精神的苦痛・信用毀損は数や量で測れませんから、損害が何円になるか証明することは困難です。

そこで、慰謝料・無形損害の金額は、裁判所が誹謗中傷に関連する様々な事情を総合的に考慮して決めることになっています。

とはいえ裁判官も人間です。その事件ごとに自由に決めてしまうと金額が上下して不公平が生じます。
そこで、裁判官ごとに生じる判断のブレが大きくならないよう、事実上、裁判所の判決では下記のような相場があります。

  • 個人:10万〜70万
  • 企業や法人:30万〜100万

相場の範囲内で慰謝料がいくらになるかは、名誉権など侵害された権利の種類・投稿内容・書き込み方法・当事者の事情などの事実関係に基づき、過去の多くの裁判例と比べながら決まります。
実務上、慰謝料だけで100万円近くになることは珍しいですが、投稿内容や相手に現実に生じた被害などによっては、100万円を超える支払いが命じられることもあります。

2.権利ごとの慰謝料相場

上記の通り、慰謝料相場は「侵害された権利の種類」によって違ってきます。
該当しうる権利侵害としては、名誉毀損、名誉感情侵害、プライバシー権侵害などがあります。

(1) 名誉毀損

名誉毀損は被害者の社会的評価、つまり他人からの評判を低下させる投稿に認められます。
慰謝料の相場は以下の通りです。

  • 個人:10万〜70万
  • 企業や法人:30万〜100万

相場の中でも増額する(あるいは例外的に相場を超えた金額まで伸ばす)には、社会的評価の低下をはじめとした投稿に関わる事情の悪質性を主張することが大切になります。
例えば、犯罪者だというデマは、相手の名誉に対して現実生活に支障が出るほど大きな危害を与える可能性が高いでしょう。

ポイントは、被害者側と加害者側で事情を整理してみることです。

<被害者側の事情>
・社会的評価がどれだけ低下したか
・職種や役職などの社会的地位の高さ
・仕事や生活にどれだけ不利益を与えたか

<加害者側の事情>
・動機の悪質さ
・表現内容の下劣さ
・公共性や真実性などを一部でも満たしたか
・書き込みが広がった範囲

慰謝料を上げる根拠となる事実、特に現実に生じた不利益や表現内容の問題点などを証明するための証拠を幅広く集め、保管しておきましょう。

(2) 名誉感情侵害(侮辱)

侮辱による名誉感情侵害に対する損害賠償請求も認められています。
名誉感情とは、人が自分自身に対して持つ自尊心・プライドです。

ただし、その相場は数万円から10万円程度と少額が基本です。
名誉感情侵害は主観的な感情の問題ですから、どうしても客観的・社会的な評価の問題である名誉毀損よりも慰謝料額は抑えられてしまいます。

賠償請求できる条件は、「諸事情を総合考慮して社会通念上の受忍限度を超えた侮辱行為と言えるかどうか」、つまり、ただの悪口どころではなく、常識的に考えて許されない罵詈雑言がされて初めて損害賠償請求ができるのです。
そのため、書き込み1つがとても悪質だというだけでは、何十万円もの慰謝料を請求できる可能性は低いでしょう。

名誉感情侵害でも例外的に高額請求できるケースがあるとすれば、侮辱発言がしつこく何度も繰り返されるなど、いわゆる「粘着行為」による名誉感情侵害が考えられます。
いくつもの書き込みに名誉感情侵害が認められれば、個別の慰謝料が積み重なっていくからです。

しかも、誹謗中傷の頻度・回数は、名誉感情侵害で賠償請求できるか判断するうえで、発言内容の悪質性や経緯などと並ぶ考慮要素の一つとなっています。
執拗に何度も誹謗中傷をしたケースでは、相手に与えた不安感が増えたとして慰謝料が増えやすくなるでしょう。

(3) プライバシー侵害

プライバシーとは、普通の人なら他人に秘密にしたいと思うような、私生活における個人情報です。

どんな人も世間に知られたくない秘密を持っているでしょうが、政治家の犯罪のように公表するべき利益のほうが大きいケースもあります。
そのため、慰謝料を請求するには公表されない利益のほうが大きいことが条件となります。

プライバシー侵害の慰謝料相場は名誉毀損と同じく10万〜50万が目安です。
有名人やマスコミが関わらないネット上でのトラブルでは、侮辱と同じく10万円程度になることもあります。

もっとも、プライバシーの内容や侵害行為は幅広く、具体的な事情によって慰謝料の金額は増減しやすくなっています。

端的なポイントは、「どのような情報がどれだけ広く伝わってしまったか」です。

特にプライバシーの内容は、慰謝料額に大きな影響を与えます。
性関係については裁判所も厳しく、裸や性生活などがネットに書き込まれたのであれば、慰謝料が100万円以上にまで跳ね上がることもありえます。

3.賠償金を増やす方法

最後に、一般的に相場以上の損害賠償金を手に入れるにはどうすればよいか、また弁護士費用などの出費を含めて手続全体の赤字リスクを減らす手段について解説します。

(1) 示談交渉に持ち込む

これまで説明してきた相場は、あくまで裁判所の判決におけるものです。
相手を特定したあとに示談交渉を持ち掛け、相手が同意さえすれば裁判所の相場よりも高い数百万円の慰謝料を手に入れられる可能性もあります。

もちろん、誹謗中傷をしてくるような相手ですから、すんなりとこちらの要求を受け入れるとは限りません。
それでも、公的な職に就いている・社会的な地位が高い・投稿が下劣または過激などといったケースであれば、ネットトラブルを秘密にする口外禁止条項(被害者がネットトラブルの存在や投稿者の個人情報を表にしないようにすること)を約束すると、高額な賠償金でも支払いに同意してくる投稿者もいます。

上記のような事情がある場合、誹謗中傷をしたことや投稿内容を裁判で公開されてしまうと、周囲からの評価に大きな傷がつき投稿者が社会的に大きなダメージを受けますし、事実上それを原因として降格や退職に追い込まれるリスクがあるため、多少金額を上乗せしてでも相手の口からトラブルの存在が広がることを防止したいからです。

(2) 弁護士費用(調査費用)の請求

裁判のために支払った弁護士費用の一部についても、投稿による損害として賠償請求できることがあります。
もっとも、その金額は原則として慰謝料などの1割にとどまります。弁護士に依頼しなくても裁判をすることはできるので、裁判所は全額の請求を認めないのです(慰謝料が10万円程度と極端に低いときは3割まで認められることもあります)。

一方、発信者情報開示請求に掛かった弁護士費用のことを「調査費用」と言い、損害賠償請求訴訟に掛かった支出とは区別されます。
これについては、裁判所が調査費用全額を損害賠償請求できると判断するケースが目立ち始めています。

損害賠償請求するには、発信者情報開示請求で相手の住所氏名を特定することが不可欠です。
しかし事実上、発信者情報開示請求は仮処分など専門的な手続を迅速に行わなければならず、被害者本人が処理することは困難で、弁護士に依頼しなければ投稿者を特定できないのです。

よって、裁判所でも調査費用の全てについて投稿者に支払いを認める判決が相次いでいます。
被害者本人で手続できる余地がほぼないので、相当因果関係は調査費用の全てについて認められる可能性があるわけです。

ただし、特定に失敗した投稿や、他の投稿者についての調査費用まで請求することは認められないでしょう。
発信者情報開示請求をする投稿は、成功率が高いと見込まれるものを見極めましょう(調査費用は、たとえば「投稿5個ごとに20万円」と複数の投稿ごとに金額が設定されています)。

[参考記事] ネット誹謗中傷で損害賠償請求できる「調査費用」とは?

4.まとめ

残念ながら、裁判所の慰謝料相場は十分なものとは言えないのが現状です。
調査費用の負担もあるため、誹謗中傷の全てに損害賠償請求しようとすると赤字になってしまうリスクが無視できません。

損害賠償請求の前提となる発信者情報開示請求では弁護士への依頼が不可欠です。
その法律相談の際に、以下の点などについて弁護士からアドバイスを受けましょう。

  • 損害賠償請求ができる可能性が高い投稿はどれか
  • 投稿内容などの事情や裁判例からすると見込める慰謝料額はいくらか
  • 示談に持ち込める、慰謝料を増額できるような事情はあるか

ネットトラブルの損害賠償請求では出来る限り早く動くことが重要です。一定期間が過ぎると通信会社内のデータが消去され、相手を特定できなくなります。
誹謗中傷に気付いたら、お早めに弁護士にご相談ください。

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