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「忘れられる権利」とは?日本のプライバシー保護法制の現状

インターネットの発展により、過去に起こした不祥事や犯罪などが半永久的に記録されるようになったことが、本人のプライバシーを侵害しているのではないかと問題になっています。

EUをはじめとした諸外国では、いわゆる「忘れられる権利」を認める方向の法改正等が行われています。
これに対して日本では、「忘れられる権利」を積極的に認める立法や裁判例は、依然として出てきていないのが実情です。

ただし平成29年の最高裁判例では、忘れられる権利が認められるかどうかについて、一定の判断基準が示されました。そのため、事案ごとの事情を踏まえた判断になりますが、今後は忘れられる権利を認める裁判例が出現するかもしれません。

今回は「忘れられる権利」について、日本のプライバシー保護法制の現状や、最高裁判例のポイントなどを解説します。

1.「忘れられる権利」とは?

プライバシー権の一環として「忘れられる権利」を認めるべきではないかという議論が、国内外で行われています。
「忘れられる権利」とは、他人に知られたくない自身の過去に関する情報の削除・消去等を求める権利です。

インターネットの発展により、特定の人物に関する過去の不祥事や犯罪、性産業への従事歴などが、検索エンジン等を通じて容易に検索できるようになりました。インターネット上には夥しい数のウェブサイトが存在するため、一度インターネット上で拡散された上記の情報を完全に消去することは不可能です。

しかし、インターネット検索に使われている主要な検索エンジンは、Google・Yahoo!・Bingなどに限られています。
これらの検索エンジンにおいて、他人に知られたくない過去の出来事に関する検索結果が表示されなくなれば、大半のインターネットユーザーによる関連ページへのアクセスを遮断できます。

そのため、検索エンジンの運営会社などを相手に裁判を起こし、「忘れられる権利」に基づく検索結果の消去等を求めるケースが相次いでいる状況です。

2.「忘れられる権利」に関するEU・日本の法規制

「忘れられる権利」については、EUをはじめとする諸外国では法制化が進んでいる一方で、日本では憲法・法律の明文で保障されるまでには至っていない状況です。

(1)  EUの「忘れられる権利」の保障

個人情報保護に関するルールを定める「EU一般データ保護規則(GDPR)」17条では、”right to ensure”(“right to be forgotten”)(=消去の権利(忘れられる権利))について明記しています。

参考:EU一般データ保護規則|個人情報保護委員会

またGDPRの施行に先立って、2014年5月13日には、欧州司法裁判所が「忘れられる権利」を認める判決を言い渡し、Googleに対して検索リストから特定の個人に関する情報を削除するよう命じました。

このように、EUでは法令・判例の両面から「忘れられる権利」が保障されるに至っています。

(2) 日本では「忘れられる権利」の明文の法規制はない

これに対して日本では、「忘れられる権利」を正面から認める憲法・法令の規定は存在しません。

ただし後述するように、「忘れられる権利」について一定の規範を提示する最高裁判例が出現しています。また、社会的には「忘れられる権利」の重要性に関する認識が広まってきていると考えられます。

そのため、今後「忘れられる権利」に関する議論が深まり、判例法理や法改正によって「忘れられる権利」が認められるようになることも考えられるでしょう。

3.「忘れられる権利」のメリット・デメリット

「忘れられる権利」が認められると、本人のプライバシー権が保護される反面、国民の「表現の自由」や「知る権利」が制限される可能性があります。

(1) 忘れられる権利が認められるメリット

「忘れられる権利」が認められた場合、過去の知られたくない出来事を他人に知られにくくなる点で、本人のプライバシー権を保護することに繋がります。

例えば、インターネット検索で過去の犯罪歴がヒットした場合、そのことだけを理由に就職採用を拒否されるなど、社会での活躍に支障が出てしまうでしょう。

「忘れられる権利」に基づき、インターネット上から犯罪歴等の情報の大半が削除されれば、本人の社会で活躍する機会が奪われてしまう可能性を相当程度防ぐことができます

その他、不祥事や性産業への従事などの過去についても同様に、「忘れられる権利」に基づきインターネット上から情報が削除されれば、本人が過去と決別して、前向きに人生を過ごしていくことの助けとなるでしょう。

(2) 「忘れられる権利」が認められるデメリット

「忘れられる権利」を認めるということは、同時にその情報を知りたい、手に入れたいと思っている人から、情報を得る機会を奪うことを意味します。

憲法21条1項では、国民の「表現の自由」が保障されています。言論・芸術等の表現行為をする際には、検討・思考の材料となる情報を得ることが必要不可欠です。
「忘れられる権利」により、表現行為に当たって知りたいと思っていた情報が得られなくなった場合、表現の自由が制約されているという見方ができます。

また、政治家に関する情報など、国政や地方自治に関連する情報については、国民に「知る権利」が保障されると解されています。国政や地方自治に関連する情報は、国民が参政権を効果的に行使できるようにする観点から重要性が高いため、「知る権利」によって情報公開等が強く要請されているのです。

例えば、政治家の汚職に関する犯罪歴を、「忘れられる権利」に基づき検索結果から消去させることを認めると、国民の「知る権利」が制約されてしまいます。

このように、「忘れられる権利」が認められた場合、国民の表現の自由や「知る権利」が不当に制約されてしまう可能性がある点がデメリットと言えるでしょう。

4.「忘れられる権利」に関する最高裁判例

「忘れられる権利」については、最高裁平成29年1月31日決定において、最高裁が一定の規範を定立する判断を示しています。

参考:最高裁平成29年1月31日決定

(1) 最高裁判例の事案の概要

同最高裁決定の事案では、児童買春等の罪で逮捕され、罰金刑に処せられた事実に関して、Google検索上で検索結果が表示されることが問題となりました。

本人(申立人)は、Googleの運営会社を債務者(相手方)として、裁判所に検索結果削除の仮処分を申し立てました。

申立人は、検索結果の表示によって著しい損害または急迫の危険が生じ得ることを理由に、人格権または人格的利益に基づき検索結果の削除を求めましたが、Googleの運営会社は削除を拒否し、結果的に最高裁まで争われることになりました。

(2) 最高裁が示した「忘れられる権利」の判断基準

最高裁は、従来の最高裁判例を踏襲して、個人のプライバシーに属する事実をみだりに公表されない利益が法的保護の対象となると判示しました。

その一方で、検索事業者による検索結果の提供が、現代社会においてインターネット上の情報流通の基盤として大きな役割を果たしていること、および検索結果の削除がこのような役割の制約に繋がることも併せて指摘しました。

上記の検索事業者による検索結果の提供行為の性質等を踏まえて、最高裁は「当該事実を公表されない法的利益」が「当該URL等情報を検索結果として提供する理由」よりも優越することが明らかな場合には、検索事業者に対して当該URL等情報を検索結果から削除することを請求できると判示しました。比較衡量の際に考慮すべき事情として、最高裁は以下のものを挙げています。

  • 当該事実の性質及び内容
  • 当該URL等情報が提供されることによって、本人のプライバシーに属する事実が伝達される範囲
  • 当該URL等情報が提供されることによって、本人が被る具体的被害の程度
  • 本人の社会的地位や影響力
  • リンク先の記事等の目的や意義
  • リンク先の記事等が掲載された時の社会的状況とその後の変化
  • リンク先の記事等において当該事実を記載する必要性 など

最高裁が示した上記の判断基準は、プライバシー権侵害の成立要件を示した従前の最高裁判例(最高裁平成6年2月8日判決等)を踏襲しつつ、削除請求の対象が一般的な表現物ではなく検索結果(URL等)であるという特殊性を踏まえて示されたものと評価できます。

(3) 最高裁は検索結果の削除請求を却下

最高裁は、上記の判断基準に基づき、以下に挙げる事情を具体的に比較衡量したうえで、検索結果削除の仮処分申立てを却下すべきと判断しました。

<犯罪歴を公表されない法的利益>
・児童買春をしたとの被疑事実に基づき逮捕されたという事実は、他人にみだりに知られたくない申立人のプライバシーに属する事実である
・申立人は妻子とともに生活している
・申立人は罰金刑に処せられた後、一定期間罪を犯すことなく民間企業で稼働している

<犯罪歴に関する検索結果を提供する理由>
・児童買春は、児童に対する性的搾取および性的虐待と位置付けられており、社会的に強い非難の対象とされ、罰則をもって禁止されていることに照らし、今なお公共の利害に関する事項である
・問題となった検索結果は、申立人が居住する県の名称および申立人の氏名で検索した場合の検索結果の一部であり、犯罪歴が伝達される範囲はある程度限られている

最高裁は、「忘れられる権利」という言葉は用いていないものの、比較衡量の結果によっては、検索結果の削除が認められる場合があり得ることを示しています。

本件では、具体的な事情を分析・比較したうえで、検索結果の削除が認められませんでした

しかし今後は、実質的に「忘れられる権利」を認める最高裁判例が出現する可能性もあると考えられます。
例えば、検索対象の事実に公共性がなく、かつ本人の生活に重大な支障を来す可能性が高い場合には、検索結果の削除請求が認められる可能性が高いでしょう。

5.まとめ

インターネット上の検索エンジンは、知りたい情報を得るには非常に便利である一方で、時には本人にとって知られたくない情報が無制限に拡散される助けとなってしまう場合もあります。

「忘れられる権利」は、日本では法制化こそされていないものの、最高裁判例によって実質的に認められる場合があり得ることが示されています。

もしご自身のネガティブな過去に関する情報が、インターネット検索によって表示されてしまうことでお困りの場合は、一度弁護士までご相談ください。
仮処分申立てなどを通じて何らかの対処ができないか、弁護士が親身になって検討・対応いたします。

[参考記事] 逮捕歴・実名報道がバレたくない!削除依頼はできる?
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