ネットで誹謗中傷してしまった場合、どうなるのか?
近年、SNSやネット上の掲示板などでの誹謗中傷事例が相次いでいます。
SNSに投稿する際、つい厳しい口調で相手を責めてしまった…という経験のある方は意外に多いのかもしれません。
もし、相手を侮辱したり、人格を否定したりするような誹謗中傷をしてしまった場合には、損害賠償請求をされたり、刑事罰に問われたりすることもありえます。
今回は、ネット上で誹謗中傷をしてしまった場合の正しい対処法について解説します。
1.ネット誹謗中傷の法的責任|刑事事件、民事事件
まず、インターネット上での誹謗中傷によってどのような法的責任が生じるのかを理解しておきましょう。
(1) 刑事事件での処罰|名誉毀損、脅迫罪、侮辱罪、信用毀損罪
「インターネット上の誹謗中傷」という問題はよくメディアでも取り上げられていますが、「誹謗中傷」自体は法律用語ではなく、他人に対する言葉による人格攻撃や嫌がらせのこと全般を指します。
法律上、刑事事件として問題となるのは、誹謗中傷行為が以下の罪にあたる場合です。
- 名誉毀損罪
- 脅迫罪
- 侮辱罪
- 信用毀損罪
名誉毀損罪
名誉毀損罪(刑法230条1項)は、「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。」と規定しています。
ネット上の誹謗中傷事例で名誉毀損罪に当たるかどうかは、その言葉が人の社会的評価を低下させる危険のある、具体的な事実の指摘かどうかがポイントになります。
社会的評価を低下させる恐れがあれば足り、実際に低下したか否かは問いません。
例えば、「××が会社のお金を横領している」「○○が会社で不倫している」ということをSNSに投稿するケースなどが挙げられます。
脅迫罪
脅迫罪(222条1項)は、「生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、二年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。」と規定されています。
2項では親族に対する同様の行為も罰する旨が規定されています。
ポイントは告知した内容が相手に危害を加える内容か否かです。例えば、「明日お前を殺しに行く」「家族に暴行する」といった内容が考えられます。
侮辱罪
侮辱罪(231条)は「事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。」ことを明らかにしています。
名誉毀損罪と似ていますが、侮辱罪は具体的な事実を指摘していない場合に成立します。例えば、「お前は馬鹿だ」「ブサイク」などの抽象的な侮蔑表現が挙げられます。
侮辱罪はネット上の誹謗中傷事例に適用される例が増えているので要注意です。
信用毀損罪
信用毀損罪(233条)は、「虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し…た者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。」と規定しています。
信用毀損罪は経済活動の側面における社会的信用を保護するものであり、これが成立するのは他人(会社などの法人も含みます)の経済的・社会的信用を落とす虚偽の内容を書き込んだ場合です。
例えば、事実ではないのに「あの会社は倒産しそうだ」「あの店の衛生環境は最悪。料理に虫が入っていた」と書き込んだ場合です。
(2) 民事の損害賠償請求|名誉権侵害、プライバシー侵害、肖像権侵害
名誉毀損などの誹謗中傷は刑事事件になるだけではなく、相手から損害賠償請求をされるおそれもあります。
刑事で立件することが難しい場合でも、民事で損害賠償を請求してくる可能性はあるでしょう。
具体的な内容としては、以下の3つが考えられます。
- 名誉権侵害
- プライバシー侵害
- 肖像権侵害
名誉毀損罪などの犯罪として刑事責任を追及することができる場合は、誹謗中傷行為は民事上も違法ですから、損害賠償請求することも可能です。
例えば名誉毀損行為は、民法上保護を受けるべき名誉権を侵害したとして不法行為に基づく損害賠償を請求可能なのです。
脅迫罪・侮辱罪・信用毀損罪に該当する各行為も、それぞれ民法上保護を受けるべき法的利益を侵害する違法行為として慰謝料などの損害賠償請求が可能です。
また、ネット上で住所や電話番号、犯罪歴などの個人情報を勝手に公開した場合にはプライバシー侵害に当たる可能性があり、それを根拠に損害賠償請求を受けることもあります。
さらに、勝手に人の顔写真を公開する行為も危険です。人には、他人に無断で私生活上の容姿を撮影されたり、公表されたりしない人格的利益(いわゆる肖像権)があり、その侵害は不法行為となるからです。
2.誹謗中傷をしてしまった場合にできる対処法
「名誉棄損で訴えられるかも」「損害賠償請求されるかも」と不安なのであれば、きちんとした対応が必要です。ご自分でできる対処法と、弁護士に依頼すべき対処法がありますので、順番にご説明します。
(1) できるだけ早く削除対応
ご自分でできる最も有効な対処法は、誹謗中傷に当たる内容をご自身で削除することです。
SNS等で誹謗中傷をした場合は、コメント自体を消去してください。
ネット上の掲示板サイトなどに投稿してご自分で削除できない場合には、管理者に削除依頼をしてみましょう。
なお、この削除依頼を弁護士がご本人に代わって行うことも可能です。ご自分での手続に自信がない方は、弁護士に委ねた方が、スピーディかつ確実な削除が期待できます。
誹謗中傷の削除に対し、「削除した後でも責任を追及されるのでは?」と不安になる方もいらっしゃるでしょう。
確かに、削除しても責任を追及される可能性はあります。しかし、早めに削除すれば、その分追及されるリスクが下がりますし、削除せずに損害の拡大を放置したことは、慰謝料額の算定にあたって増額要素として考慮されてしまいます。
(2) 意見照会書への回答
すでに相手が発信者情報開示請求をしている場合には、意見照会書が送られてきているかもしれません。
これは、インターネット上の投稿に対して削除請求や発信者情報開示請求がされると、通信会社などのプロバイダからネットに書き込みをした投稿者に送付されるものです(プロバイダ責任制限法に定められた意見照会手続による)。
これに回答せず無視していると、住所・氏名などの情報開示が行われてしまう可能性が高くなります。
結果として損害賠償請求が行われるリスクが高くなることから、意見照会書が届いたら弁護士に相談して正しく反論するべきです。
反論の内容としては、次のような例があります。
- プライバシー侵害の主張に対して、投稿内容は既に公知の事実であり、そもそも権利侵害の事実がないと主張すること
- 名誉毀損の主張に対して、当該投稿は公共の利害にかかわる事項を公益目的で行ったもので、かつ、その内容は真実だから違法性がないと主張すること
- 損害賠償や差止請求などが目的ではなく、発信者の情報をネット公開することが開示請求の目的であるから、開示請求者には開示を受けるべき必要性(正当な理由)がないと主張すること
これらのように、開示請求者が主張する違法な権利侵害との主張が成立しないことや開示の必要性がないことを明確に記載する必要があります。
法律論として筋の通った意見照会回答書を作成するためにも、弁護士に協力してもらうことをお勧めします。
(3) 訴えられた場合の反論
意見照会回答書を送らずに無視したり、意見照会回答書で弁明しても裁判所が住所氏名の開示を認める判決を下したりしたならば、通信会社などのプロバイダから「あなたの情報を請求者に開示しました」といった通知が来るでしょう。
こうなると、その後は実際に損害賠償請求されたり、訴えられたりしてしまう可能性が高いです。
「お店の口コミ投稿で事実を書き込んだだけなのに、損害賠償請求されてしまった」というケースもあるでしょう。
しかし、内容が真実であっても、名誉毀損は成立します。
また、内容が真実であるだけでなく、公益のために広く公開すべき内容であると感じ、損害賠償請求に疑問を抱くケースもあるかもしれません。
しかし、表現内容の公共性、動機・目的の公益性は微妙な法的判断であり、法理論や過去の判例を知らない素人が簡単に判定できるものではありません。
このような場合は、相手方と直接話し合うのではなく、すぐに弁護士に相談すべきです。
実際に違法性が認められるような内容であるのか、専門家の視点で確認してもらう必要があるためです。
「悪いことはしていないのだから弁護士は必要ない」と考える方もいらっしゃるかもしれませんが、内容によってはご自身の考えにかかわらず罪になってしまったり、請求が認められてしまったりすることもあります。
ご自身の正当性を主張するためにも、主張を法的に構成できる弁護士のサポートが必要不可欠です。
仮に誹謗中傷に当たると判断された場合には、示談交渉が必要になります。
慰謝料の金額や調査費用の金額負担などについて交渉することになりますが、弁護士に依頼することで、できる限り不利益を少なくし、迅速に解決まで進めていくことができます。
また、裁判となった場合でも、弁護士ならば適切に対処してくれます。
3.弁護士へ依頼すべきタイミング
誹謗中傷に関連して心配事がある場合は、その時点で弁護士に相談してください。この時点で相談するのがベストですが、そうでない場合でも「訴えられた」「開示請求を受けた」という段階に達したらすぐに相談すべきです。
刑事告訴や損害賠償請求を受けた場合には、相手との示談交渉が必要になります。
刑事告訴されてしまった場合には、起訴されないようにするためにも相手方との和解が重要です。
また、民事の損害賠償請求であったとしても、損害賠償額を減額できるように交渉を進めていくべきです。
後になればなるほど、ご自身だけで解決することは難しくなりますので、不利な状況に陥らないようにするためにも弁護士のサポートを得ることをお勧めします。