プライバシー侵害で訴えられてしまった!示談金の相場は?
インターネット上に何気なく投稿した内容が、他人のプライベートな事項に関係している場合、プライバシー侵害で訴えられてしまうおそれがあります。
もしプライバシー侵害で訴えられてしまったら、弁護士にご相談のうえ、過去の判例などを踏まえて、プライバシー侵害の成否を法的に検討しましょう。
仮に示談金を支払うとしても、裁判になった場合に見込まれる結果を念頭に置いて、適正な金額で示談をまとめることが大切です。
今回は、「プライバシー権」の概要やプライバシー侵害の成立要件、さらにプライバシー侵害で訴えられた場合の示談金相場などを解説します。
1.プライバシー権とは?
(1) プライバシー権の内容
プライバシー権は、自己に関する私生活上の情報を公開されないこと等を保障する権利です。
日本国憲法13条後段に規定される「幸福追求権」の一環として、すべての国民に保障されると解されています。
「私生活上の事柄をみだりに公開されない法的保障ないし権利」であると解するのが伝統的な解釈です(東京地裁昭和39年9月28日判決)。
また、プライバシー権の範囲をさらに拡大して、自己に関する情報をコントロールする(開示・訂正・削除を求める)権利を含むと解する見解も有力に主張されています。
これは「積極的プライバシー権」とも呼ばれており、個人情報保護法において具体化されています。
(2) プライバシー権と表現の自由との衝突
プライバシー権は、「表現の自由」と衝突する場合があります。
特定の人のプライべ―トな情報を報道したり、ノンフィクション小説などの形で発表したりすることは、表現の自由の一環であり得ると同時に、プライバシー権の侵害にも当たり得るからです。
もちろん、表現の自由が保障されているとはいえ、すべての表現行為が無制限に認められるわけではありません。
表現の自由がプライバシー権と衝突する場合には、表現行為は一定の制限を受けます。
最高裁平成6年2月8日判決の事案では、ノンフィクション小説において前科に関係する事実を公表された原告が、著作者である被告に対して、不法行為に基づく慰謝料を請求しました。
最高裁は、
「前科等にかかわる事実については、これを公表されない利益が法的保護に値する場合があると同時に、その公表が許されるべき場合もある」
と述べて、表現の自由とプライバシー権が衝突する場面であることを指摘しています。
そのうえで、「前科等にかかわる事実を公表されない法的利益が(筆者注:公表する理由よりも)優越する」場合には、公表が不法行為を構成し、被害者は加害者に対して慰謝料を請求できると判示しました。
つまり同最高裁判決は、事実を公表されない法的利益と公表する理由を比較し、上回っている方を優先するという比較衡量により、表現の自由とプライバシー権の問題を解決するという判断基準を示したものと言えます。
この判断基準は、前科等が問題になっているケースに限らず、表現行為によるプライバシー権の侵害が問題になる事案一般に適用可能であると考えられます。
逮捕者の実名報道・推知報道はプライバシー侵害に当たるか?
報道機関は、犯罪事件の報道を行う際、逮捕者を実名で報道することがあります。
また、実名報道ではなかったとしても、生年月日・出生地・非行歴・職歴・交友関係などを詳細に言明して、逮捕者の素性を推知できるような報道がなされるケースもあります(推知報道)。
逮捕者の実名報道や推知報道は、まさに表現の自由とプライバシー権が衝突する場面です。
最高裁平成15年3月14日判決では、少年事件の推知報道について、前述の平成6年最高裁判決の規範を適用し、プライバシーに関する事実を公表されない法的利益と公表する理由とを比較考量し、前者が後者に優越する場合に不法行為が成立する旨を判示しました。
その際、考慮すべき具体的事情として、以下の事項を挙げています。
- 対象者の年齢
- 対象者の社会的地位
- 犯罪行為の内容
- 公表されることによって、対象者のプライバシーに属する情報が伝達される範囲
- 対象者が被る具体的被害の程度
- 記事の目的や意義
- 公表時の社会的状況
- 情報を公表する必要性
したがって、逮捕者の実名報道や推知報道は、上記に挙げたような事情を総合的に考慮して、プライバシー権が表現の自由に優越すると判断される場合、不法行為に該当することになります。
なお、逮捕者の実名報道や推知報道については、プライバシー権の侵害と同時に、名誉毀損にも該当する可能性がある点に注意が必要です。
[参考記事] 逮捕歴・実名報道がバレたくない!削除依頼はできる?電話帳・登記・官報への情報掲載はプライバシー侵害に当たるか?
電話帳・登記・官報などには、個人情報が多数掲載されていますが、これらはプライバシー侵害に当たらないのでしょうか。
NTTが発行するハローページ(電話帳)には、個人の電話番号が掲載されています。
しかし、ハローページに電話番号が掲載されるのは、掲載に同意した方のみですので、プライバシー侵害には該当しないと考えられます。
※ハローページは、2021年10月以降に発行・配布される最終版をもって、発行が終了することが決まっています。
参考:ハローページ最終版の発行について|NTT東日本
なお、不動産登記には不動産の所有者である個人に関する情報が、商業登記には会社の取締役等の個人情報が、それぞれ掲載されています。
また、官報には自己破産や個人再生に関する情報をはじめとして、やはり個人情報が多数掲載されています。
登記や官報への掲載は、本人の同意に基づかない場合もありますが、公開による利益がプライバシー権に優越するため、プライバシー権の侵害には該当しないと解されています。
2.プライバシー侵害で訴えられたらどうなる?
他人からプライバシー侵害を主張された場合、対応せずに放置するのは危険です。
もしプライバシー侵害の訴えを放置すると、以下のリスクを負うことになってしまいます。
(1) 損害賠償請求訴訟を提起される可能性
プライバシー侵害を主張する相手方は、不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を提起してくる可能性があります。
損害賠償請求訴訟が提起された場合、裁判所から訴状が送達されてきます。
訴状の送達を受けた場合、必ずその内容を確認してください。
相手方の主張が事実無根であったとしても、裁判所の呼び出しに応じず、訴訟の口頭弁論期日を欠席した場合、相手方の請求が全面的に認められてしまいます(擬制自白。民事訴訟法159条3項)。
もしプライバシー侵害を理由として、損害賠償請求訴訟を提起された場合には、速やかに弁護士と協議のうえで、その後の対応を検討しましょう。
(2) 名誉毀損罪等で刑事告訴される可能性
プライバシー侵害に当たる言動は、同時に刑法上の名誉毀損罪(刑法230条1項)に該当することもあります。
被害を主張する者への対応を怠っていると、名誉毀損罪で刑事告訴され、警察による捜査の対象になってしまうかもしれません。
名誉毀損等に心当たりがない場合は、正々堂々と対応すれば差し支えありません。
しかし、名誉毀損等に当たる言動をしたことに心当たりがある場合には、被害者との示談を試みるのが得策です。
示談書においては、一定の金銭を支払うことと併せて、被害者が加害者の処罰を求めない旨を規定する場合があります。
被害者に処罰意思がないことが示談書に明記されていれば、その事情が考慮され、名誉毀損罪については不起訴処分となる可能性が高まります。
3.プライバシー侵害で訴えられた場合の対処法
プライバシー侵害を理由に、慰謝料等を支払うように請求された場合は、以下の手順・要領で対応しましょう。
(1) 本当にプライバシー侵害に当たるかどうかを検討
まずは客観的な視点から見て、ご自身の言動がプライバシー侵害に当たるのかどうかを検討することが、今後の対応を決めるうえでの出発点となります。
適宜弁護士にご相談のうえで、前述の比較衡量の基準を用いて、プライバシー侵害の有無を法的な観点から検討しましょう。
(2) 目指す解決の内容を検討
次に、プライバシー侵害の有無に関する検討結果を踏まえて、被害者との協議等や訴訟において、どのような解決を目指していくのかを定めます。
プライバシー侵害の事実がないならば、損害賠償を拒否し、万が一刑事告訴されたとしても、正々堂々と争うという方針でよいでしょう。
これに対して、プライバシー侵害の事実が否定しがたい場合は、被害者との間で示談を目指すべきです。
この場合、示談金はいくらが妥当なのか、いくらまでなら支払えるのかを検討して、示談に同意できる金額の範囲を決めておきましょう。
(3) 被害者と示談交渉を行う|示談金相場
プライバシー侵害の事実を認め、被害者と示談交渉を行う場合は、まず真摯に謝罪の姿勢を見せることが大切です。
ただし、謝罪をしたからといって、被害者の言い値で示談金を支払う必要はありません。
示談金額はあくまでも、被害者に生じた客観的な損害額をベースとして決定されるべきです。
プライバシー侵害の示談金額は、おおむね50万円~200万円程度が標準的です。
基本的には上記の範囲内で、言動の状況・悪質性などを客観的に考慮しながら、どの程度の金額が妥当かを見定めて示談交渉に臨みましょう。
(4) 訴訟手続の中で反論する
プライバシー侵害の事実を争う場合や、被害者が提示する示談金額が不当に高額な場合には、訴訟の提起を待って対応することもやむを得ません。
訴訟では、被害者による立証の欠陥を突いて、不法行為の成立要件を反証する必要があります。
訴訟手続への対応は、弁護士にご依頼いただくのが安心です。
4.プライバシー侵害で訴えられてしまったら弁護士にご相談ください
プライバシー侵害による被害を主張する者により、刑事告訴や損害賠償請求を受けた場合、適切に対応しなければ、刑事罰や多額の損害賠償のリスクに晒されてしまいます。
弁護士にご依頼いただければ、事件の客観的な状況や依頼者のご希望を踏まえて、目指すべき落としどころをアドバイスいたします。
また、実際の示談交渉・民事訴訟・刑事手続への対応も、弁護士に一任いただければ安心です。
依頼者に生じる損害を最小限に食い止められるように、弁護士が親身になってサポートいたします。
もしプライバシー侵害で訴えられてしまったら、お早めに弁護士までご相談ください。